中古車には日々様々な車が入庫します。
今回入荷した車にちょっと気になる部品が追加されていました。
上の写真の黄色で囲っている部品、
シートベルトに取り付けられている四角い部品です。
この部品、「シートベルトを巻き戻さないよう
ある程度の長さをあらかじめ出しておく」
という仕事を担っています。
この部品が付いた状態でシートベルトをしてみます。
「美人事務員さーん！！」
英語ペラペラかつ中古車の様々な仕事をそつなくこなす
優秀な事務員さんにシートベルトをしていただきます。
「シートベルトは英語で何て言うんですか？」
「スゥィーッベルツ」
「おおー！」
写真の通りシートベルトに取り付けられた部品によって
シートベルトがガバガバです。
ピーンと張ってないですよね。
これは
「シートベルトの締め付けが嫌だから解放されてラッキー！」
ではなく
「うーん、これはちょっと」
なんです。
ちょびっと想像してみて下さい。
宅配で荷物を運んでもらう時、箱の中の荷物が動かないように
隙間にスナック菓子等を詰めますよね？
お菓子は詰めない！という方でも隙間を埋めるため紙などを詰めますよね？
その「荷物が動かない」という状態がシートベルトでたとえると
ちゃんとできている状態です。
では、シートベルトを緩めて使った場合はどうでしょうか？
これは箱と荷物の隙間を埋めずに荷物を発送するのと同じです。
だってガバガバなんだもん。
届いた荷物が箱の中でガバガバで、
届いた時には壊れていたりしたら皆さんどうでしょうか？
いくらスバルグローバルプラットフォームのような
「歴代の日本車でトップの安全性」
と評価されるような堅牢なボディのスバル車でも、
シートベルトしてないと意味ないじゃん！
というのがなんとなく感じていただけたでしょうか？
もう一つ大切なポイントがあります。
現在の自動車のシートベルトには
「ダブルプリテンショナー機能」というものが備わっています。
ご存知の方も多いと思いますが、これは
「衝突時にシートベルトを付け根方向に一瞬で引っ張る」
という仕組みです。
出来るだけ体をシートから離れさせないために
シートベルトを一瞬で巻き上げます。
シートベルトがゆるゆるだとこの動作が阻害されます。
「え！？こんなに巻き込んでるのにまだゆるゆるなの？」
となるわけです。
ではなぜそんな事をするの？
と思う方は下の計算を試してみて下さい。
時速４０ｋｍ／ｈで壁に正面衝突すると、
自分の体重の約３０倍もの荷重がかかります。
平均的な成人男性の体重を６５ｋｇとして
その際の荷重を求めよ。
「うーん、、おじさんになっても勉強嫌だ！」
「答えは１９５０ｋｇ！約２トン！」
これはすごいエネルギー量だ。
巻き上げ賛成！巻き上げていただきたい！
「あともう一つ大切な事がありまして・・・」
「話の長い男は嫌われますよ。」
「嫌われてもお伝えせねばならん時があるんです！」
シートベルトを巻き上げるダブルプリテンショナーが
正常に働く前提でエアバッグが設計されています。
ここ大事です。
ご存知の方も多いと思いますが、エアバッグが風船のように
「ポヨン」としているのはほんの一瞬です。
事故に合わせて一瞬で展開し、すぐにしぼみます。
その一瞬で最大の効果を発揮するために、
シートベルトが正常である前提で
エアバッグの展開タイミングや位置、大きさなどを設計しています。
じゃあ、シートベルトがゆるゆるだったら？
考えたくもないですね。
現行のインプレッサやフォレスター、レヴォーグなど、
スバル車の多くには膝元を守る
「ニーエアバッグ」が装着されています。
実はこれもシートベルトをきちんとしめている前提の装備です。
余談ですが現行のインプレッサ、フォレスターには
「ロッキングタング」という仕組みが取り入れられています。
「なんかシートベルトのバックルが違う」
と思いながら使ってる方も多いと思います。
この「ロッキングタング」も凄いですよ。
事故で前方向に荷重がかかった際に、
このバックル部分でシートベルトを固定する事で、
腰を前にずらさないという仕事をします。
より体をシートに密着させる事が出来るんです。
だからニーエアバッグの効果を高められる、
という訳ですね。
シートに深く腰掛けたいですね。
あと、シートベルトを緩めると
乗降時によくこうなります。
「これ見たことあります！柱周辺の鉄板が凹んでるの見ました！」
はい、よくドアに挟みこんでしまいますので
長く大切に乗るにはお勧めいたしません。
「という事でシートベルトに付けられたこの部品は外します。」
「次のオーナーさんにお渡ししないのですか？」
「安全のために破棄しますのでご理解下さい。」
